ダイビングのハンドサイン一覧|意味使い方安全合図早見表と迷わない運用

Scuba diving hand signs ダイビングの知識
水中では声が届かないため、ダイビングのハンドサインは命綱に直結する言語です。
海況が荒れても、相手の装備が違っても、意味がぶれない手の動きを共有できれば、安全も観察も撮影も安定します。本稿は最重要の基本サインから安全・移動・観察・トラブル・夜間/地域差までを一望し、現場で迷わないように意味→使う場面→注意点の順で手順化します。まずは全体像を掴み、次に細部を練習で固める。これが上達の最短経路です。

  • 基本はOK/問題あり/上昇/下降/停止/残圧の六本柱です。
  • 意味は短く、動きはゆっくり大きく、相手の目線に入れます。
  • 合図は受信→復唱→行動の順で確定し、誤解を残しません。
  • 夜間や濁りはライトの円で手を囲い、影を使ってコントラストを出します。
  • 地域差はありますが、安全関連は世界でほぼ共通です。
  • チームは事前に「使う語彙」を紙一枚で合わせてから潜ります。
  • 現場練習は浅場/砂地で5分から。短く繰り返すほど定着します。

基本のハンドサインと意味の早見

導入:ここでは、最も使用頻度が高い基本サインを整理します。OK/問題あり/上昇/下降/停止/残圧の六本柱が通じれば、ほとんどの状況で意思疎通は途切れません。動きは大きく、胸の前〜顔の横で、相手の視界に入れるのがコツです。無意識の癖が混ざると誤解のもとになるため、意味は一つに固定し、見せ方を標準化します。

サイン 意味 場面 注意
OK 親指と人差し指で輪 大丈夫/了解 開始/中層/終了 ライトで円を照らす
問題あり 手のひらを左右に振る 不調/異常 装備/体調 内容サインを続ける
上昇 親指を上 浮上/上へ 終了/層移動 理由を添える
下降 親指を下 潜降/下へ 開始/層移動 耳抜き確認
停止 手のひらを前に 止まる 危険/整列 位置保持
残圧 指で数/ゲージ指差し 残量/共有 巡回確認 ゆっくり示す

注意:OKと「浮上したい(親指上)」は混同しやすい別物です。OKは輪、浮上は親指。迷ったら口元にレギュを指し、次に親指で方向を示すなど、二段で確定させましょう。

ミニ用語集

  • 復唱:受信したサインを同じ動きで返す確認。
  • 視認域:相手のマスクから腕一本ぶんの範囲。
  • 合図列:意味→理由→行動の順に並べる型。
  • フォロー:相手の動きに重ねてサインを補強。
  • コントラスト:背景と手の明暗差で可読性を上げる。

OK(了解/大丈夫)の確定と返答

OKは最頻出の確認サインで、状態共有の要です。輪を胸の前で静止させ、相手の目線に入る角度で2秒ほど保持します。受け手は必ず復唱し、返事の即時性で「聞こえた/見えた」を保証します。濁りや夜間はライトの円で手を囲い、背景とのコントラストを出すと誤読が減ります。泳ぎながら小さく出すと見落とされがちなので、止まって見せる→返ってくるまで待つを徹底します。

問題あり(不調/異常)から内容サインへ繋ぐ

手のひらを左右に振る「問題あり」は、次の内容サイン(耳/寒い/残圧/機材)への前置きです。まず異常を宣言して隊列を止め、相手の視線を集めてから内容を示すと、対応が速くなります。焦って直接内容を出すと周囲が気づきにくく、合図が空振りします。宣言→停止→内容→解決/撤退の順に固定し、問題の所有者が指揮を取らずに、ガイドや相棒に主導権を渡しましょう。

上昇/下降(層移動)と理由付け

親指の上下は、方向だけでなく意図を示す短文として機能します。上昇なら「安全停止」「船へ」「浅場へ」、下降なら「サーモクライン下」「根の陰へ」など、理由を続けて補足すると迷いが減ります。チームの経験差がある場合は、方向→理由→速度を3点セットで提示し、返事の復唱まで待ってから移動を開始します。速度は手の上下のストローク幅で伝え、速すぎる浮上は避けます。

停止(ストップ)で場を整える

平手を前に出す停止は、意思疎通の準備動作でもあります。合図の伝達は動いていると漏れやすいため、まず止まる。止まったら距離を詰め、ライトの円を胸元に置いてから要件を伝えます。水面近くでは波で手が揺れ、浅場の砂地では背景に手が溶けます。体を根に寄せたり、暗いスーツを背景にするなど、可視性を上げる工夫を添えると誤解が激減します。

残圧の確認と共有の作法

残圧はゲージを指差し、指で百位と十位をゆっくり示します(例:200→2と0を順に)。相手が見返したら、同じく提示してもらい、最大値に合わせて次の行動を決めます。低残圧を伝えるときは「問題あり→残圧→上昇/行動」を続け、焦りを顔や動きに乗せないのがポイント。見せる前に吸って吐くと手の震えが減り、数字が読みやすくなります。

小結:基本サインは意味を一つに固定→復唱→行動の型で使います。OKと方向サインの区別、停止で場を整えるひと手間が、誤読を最小化します。

安全関連サインの運用と読み違い防止

導入:安全サインは、誤解が事故に直結します。ここでは助けて/体調/危険生物など緊急度の高い合図を、比較と手順で実装します。合図は受け手が主導し、宣言者は無理に動かないのが鉄則です。近づき、掴み、止まるの三拍子で状況を安定させましょう。

比較ブロック

悪い実演

  • 離れた位置から小さな動きで訴える。
  • 内容を先に出し、隊列が散らばる。
  • 反応を待たず移動して状況が悪化。

良い実演

  • 問題あり→停止→内容→行動の順。
  • 受信側が近づき身体を支え視線を合わせる。
  • 理由と方向を添え、復唱後に移動する。

手順ステップ(安全サインの基本導線)

  1. 宣言:問題ありを出して周囲を止める。
  2. 内容:耳/寒い/残圧/痙攣などを指示。
  3. 支援:受信側が腕/BCDを掴み浮力を安定。
  4. 方針:上昇/浅場移動/続行を短く合意。
  5. 実行:復唱後に移動、途中も残圧と耳を確認。

ミニFAQ

  • Q. パニック気味の相手には? A. 目線を合わせ呼吸を合わせる。移動は最小限。
  • Q. 痛みを伴う耳抜きは? A. 即停止し浅場へ。再挑戦は痛みのない深度から。
  • Q. 危険生物を見たら? A. 距離を保ち、近づかない合図を先に示す。

助けて/トラブルの伝え方と受け方

助けては片手を大きく振る、または両手を振り上げるなど、派手で迷いのない動きで知らせます。受信側は近づき、肩やBCDの持ち手を掴み、浮力を先に整えます。内容は後からでよいので、まず止める。相手が移動を始めたら、手首を軽く押さえ停止サインを上書きして落ち着かせます。チームはこの導線を事前に練習し、支援者が主導する文化を共通化しましょう。

耳・寒さ・体調のサインを短文化する

耳は指で耳を指し示し、痛みなら問題ありを先に出します。寒さは腕を抱える仕草、痙攣や吐き気は口元や腹部を示してから上昇を提案。短文は「内容→方向→速度」の三語で構成し、相手の復唱を確認してから動きます。内容だけで動かないのが冷静さの指標です。

危険生物・環境の注意喚起

ライオンフィッシュやウニ、電気クラゲなどは、対象を指差して近づくなの手刀を重ねます。釣り糸や流れ藻などの環境リスクも同様に、停止→指差し→距離の三段で伝えます。撮影欲が勝ちやすい場面ほど、距離のルールを先に共有しておくと衝動を抑えやすいです。

小結:安全系は宣言→停止→内容→方針→実行。受信側が主導し、浮力を先に整えるだけで大半の問題は小さくなります。

方向・移動・隊列のサインと距離設計

導入:移動のサインは、隊列の秩序と快適さを左右します。進行/停止/Uターン/距離/層移動を短く確定させると、泡や流れの中でも迷いません。ここでは実務の順序と、混雑時に効く距離設計のコツを固めます。

有序リスト(移動の基本型)

  1. 進行方向を指し、先頭が速度を決める。
  2. 停止で整列し、次のサインを待つ。
  3. Uターンは指で円を描き、誰が先頭かを決め直す。
  4. 層移動は親指と速度の幅で伝える。
  5. 距離は手幅で示し、近すぎたら手刀で下がる。
  6. 狭所では縦列、開けた場では横列に切替える。
  7. 写真中は後列が停止し、追い越さない。
  8. 狭い根では一人ずつ通過し、出口で合流。

コラム:ダイバーは自分の泡で後続の視界を奪います。左右オフセットで並び、泡の列をずらすだけで、撮影も観察も劇的に見やすくなります。速度を下げるより、位置の工夫が効きます。

ミニチェックリスト(出発前の合意)

  • 先頭と最後尾、速度係を決めたか。
  • Uターン時の並び替えを決めたか。
  • 低視界の距離(手一本/二本)を決めたか。
  • 写真停止の最大時間を決めたか。
  • 合流地点と撤退基準を紙で持ったか。

進行・停止・Uターンの滑らかな切替え

進行は方向指差し→OK復唱→先頭が速度提示、停止は平手で止めてから要件。Uターンは指で円を描き、新しい先頭を指名してから動くと列が乱れません。狭所では列が詰まりやすいので、先頭が角を曲がる前に停止し、列を短く折りたたむ感覚を持つと事故が減ります。

縦列/横列と距離管理のサイン

縦列は狭い根や通路で有効、横列は観察や撮影の時に視界を広く保てます。距離は手幅で「もっと近く/下がって」を伝え、濁りの日は手一本まで近づくルールが安全です。距離は礼儀であり、衝突や砂巻き上げの大半を予防します。

ロープ/岸/船への合図と導線

ロープへ行くサインは指でロープを描く動き、岸/船は指差しに親指上下を添えます。合流は「停止→数える→方向」の順に短く。海況が悪い時ほど、短文×復唱の手数で安全が底上げされます。

小結:移動は先頭指名→速度提示→距離礼儀の三点で整います。列の秩序は、観察と安全の両方を底上げします。

観察・撮影・生物のサインを成果につなげる

導入:観察と撮影のサインは、静けさと距離設計に直結します。撮影準備/ライト/被写体の種類/危険度を短く共有できれば、歩留まりと安全が同時に上がります。ここでは現場の言い回しを最小語彙に圧縮し、迷いをなくします。

無序リスト(撮影時の合図)

  • 写真撮る:人差し指でシャッターを押す仕草。
  • ライト当てて:指で円→ライトを対象へ。
  • 近づかない:手刀で距離キープを指示。
  • 順番待ち:指を一本立てて自分が先。
  • 終わり:親指を横に払って交代を促す。
  • マクロ/ワイド:指の間隔を狭/広で示す。
  • 種を示す:カニ/エビ/魚の形を簡略で。
  • 危険度:手の甲でチクチクを表現。

ミニ統計(体感傾向)

  • ライトの角度を斜めにするだけで白飛びが減少。
  • 距離の合図を先に出すと被写体の逃避が減る。
  • 順番の宣言で撮影待ちの滞留時間が短縮。

事例:根の風下でライトを斜めに入れ、交代サインを短く回したところ、被写体が定位置に留まり続け、三人が各2枚ずつ良品を得られた。距離の合図が静けさをつくった好例。

撮影準備とライトの使い方サイン

撮影前は「撮る→ライト→距離→順番」を短く回します。ライトは対象の横から斜めで、砂を照らさない角度が基本。距離の合図がないと後続が被写体を追い込みがちです。交代の合図は早めに出し、滞留を作らない運用でチーム全体の歩留まりを上げます。

種別・サイズ・危険度の伝達

カニ/エビ/魚/ウミウシなどは手の形で簡略に示し、サイズは指の間隔で表現。危険度はチクチクのジェスチャで近寄らない合図を添えます。伝えすぎないことも技術で、短文で行動を決め、詳細は浅場でログにまとめましょう。

マクロとワイドの切替サイン

マクロは指を寄せ、ワイドは両手を広げる。切替を短く宣言すると、隊列が勝手に詰まらず事故が減ります。濁りの日はマクロに寄せ、遠景は諦める潔さが品質を上げます。合図は速度と距離の微調整まで含めて提示しましょう。

小結:観察と撮影は距離→順番→角度の三語で回すと静かに進みます。短文の合図が、そのまま品質をつくります。

トラブル・緊急時の拡張サインと決断の型

導入:緊急時は、エア/マスク/レギュ/迷子の四系統を想定し、拡張サインと手順を結びます。サインは派手に、動きは小さく。決断は早く、移動はゆっくりが原則です。

ベンチマーク早見

  • 100bar以下で共有、70barで戻り、50barで上昇。
  • マスク喪失は即停止→浅場へ移動。
  • フリーフローはバルブ調整または上昇決断。
  • 見失いは1分探索→集合地点へ。
  • 体調不良は浅場固定で回復を待つ。

よくある失敗と回避策

失敗1:低残圧で黙って焦る→回避:70barで宣言。

失敗2:マスク不調で泳ぎ続ける→回避:停止→浅場へ。

失敗3:迷子で動き回る→回避:1分探索→集合へ。

手順ステップ(緊急時の共通導線)

  1. 問題ありを大きく示し、隊列を止める。
  2. 内容を一語で示す(エア/マスク/寒い)。
  3. 受信側が掴み、浮力と姿勢を安定させる。
  4. 方向と速度を合意し、復唱後に移動する。
  5. 上昇後は水面で再評価し、再潜行は無理しない。

エア切れ・予備空気・エアシェアのサイン

喉元を切る仕草はエア切れ。オクトパスを指差し差し出すのが提供側、受け手はOKで復唱→掴んで呼吸→上昇の順。低残圧はゲージを示し、早めの宣言が最大の安全策です。

マスク・レギュのトラブル伝達

マスクは目を指差し、外れなら×印を重ねます。レギュ不調は口元を指し問題あり→交換を指示。フリーフローは口元を手で覆い、浅場へ。止まる→掴む→浅場を固定化しましょう。

浮上・中止・捜索合流の意思決定

中止は親指上+胸前で交差。迷子は1分その場で円を描きつつ探索→集合地点へ移動。手順を紙で持つだけで、焦りの連鎖は止まります。

小結:拡張サインは早い宣言×掴む×浅場で効果を発揮します。決断は早く、移動はゆっくりが合言葉です。

国際差・夜間/低視界・学習法と定着術

導入:地域差や夜間運用を理解すると、異文化のチームでも迷いません。ライトサイン/影の使い方/事前すり合わせを押さえ、短時間の練習で定着させましょう。

コラム:国際的な講習団体で概ね共通の基礎がある一方、残圧の指示方法やOK/問題ありの細部には揺らぎがあります。違いを責めず、「今日使う語彙」を15個程度に絞って紙に書き、港で3分で合わせる。これだけで現場のストレスが減ります。

ミニFAQ

  • Q. 夜間はどう見せる? A. ライトの円で手を囲い、影でコントラストを作る。
  • Q. グローブで見えにくい? A. 甲を相手へ、手首より先を大きく使う。
  • Q. 低視界での距離は? A. 手一本まで寄り、胸前で合図を固定。

ミニ統計(体感傾向)

  • 港で3分の語彙合わせで誤解が半減。
  • 浅場で5分の練習で本番の停止回数が減少。
  • ライトの円活用で夜間の見落としが顕著に減る。

国際差と地域流儀のすり合わせ

残圧の示し方やOKの形に微差があるため、事前に紙で合わせます。安全系は共通なので、違いは観察系に出やすい。異なる流儀を責めず、今日の語彙を決める姿勢が成果につながります。

夜間ライトサインと影の作法

ライトは相手の胸元に円を置き、そこにサインを入れます。直射は眩惑するため、斜めから柔らかく。影は読みやすさを上げる味方です。固定の型を持ち、全員で同じ場所に合図を出しましょう。

学習と反復練習の設計

学習は浅場/砂地で5分、意味→見せ方→復唱の順で反復します。1回で全てをやらず、毎回3語彙だけ練習し、ログに結果を簡潔に残すと定着します。動画より現場の短時間反復が効きます。

小結:国際差と夜間は語彙合わせ×ライトの円×短時間反復で乗り切れます。違いを尊重し、今日の型を共有しましょう。

まとめ

ダイビングのハンドサインは、水中の安全と成果を同時に高める言語です。基本の六本柱(OK/問題あり/上昇/下降/停止/残圧)を核に、安全系は「宣言→停止→内容→方針→実行」、移動は「先頭指名→速度提示→距離礼儀」、観察と撮影は「距離→順番→角度」で運用します。緊急時は早い宣言と掴む支援、夜間や低視界はライトの円と影のコントラストで可読性を確保。国際差は紙一枚で語彙を合わせ、浅場で5分の反復で定着を加速させましょう。読後の一本は、合図が短く、動きが静かで、チームの笑顔が長く続くはずです。