本栖湖でダイビング!海派もハマる淡水の魅力を知るQ&A完全保存版

Lake diving guide underwater ダイビングの知識
「本栖湖ダイビング」で検索する人の多くは、海とは勝手が異なる“高所×淡水”の条件下で安全かつ快適に潜るための具体情報を求めています。

本栖湖は富士五湖の中でも透明度に優れ、朝の斜光に浮かぶ沈木や湧水のゆらぎ、溶岩棚と水草帯のコントラストが唯一無二の景観をつくります。一方で、淡水は浮力が小さく、標高約900mゆえにダイブコンピュータのアルティチュード設定が必要、サーモクラインをまたぐと体感温度が急変するなど、準備と運用の“勘所”があります。

本稿は「魅力→時期→装備→スキル→ポイント→現地運用」の順で、本栖湖ダイビングの全体像を体系的に整理。はじめての人でも迷わず計画でき、フォト派やトレーニング目的のダイバーにも役立つ“現場で使える”知見を、チェックリスト・表・小ワザとともに凝縮しました。

  • 想定読者:初めての本栖湖/淡水・高所の基礎を固めたい人/フォト派・中性浮力練習
  • 得られること:透明度・時期・装備・安全手順・代表ポイント・当日運用の要点
  • 最重要キーワード:本栖湖 ダイビング/透明度/アルティチュード/沈木/湧水

本栖湖ダイビングの基本情報(環境・透明度・水深・淡水特性)

富士五湖の最西端に位置する本栖湖は、富士山の噴火史に由来する溶岩地形と豊富な湧水で知られる日本屈指の淡水ダイビングスポットです。標高はおよそ900mで、いわゆるアルティチュード(高所)潜水の範疇に入ります。

最大水深は120m級と非常に深く、岸から数メートルでストンと落ち込む急深地形が点在。浅場は溶岩棚と砂礫帯、水草帯がモザイク状に広がり、湖底には年月を経た沈木が鎮座します。海に比べ塩分がないため浮力は小さく、同じ装備・同じ空気量でも“やや沈みがち”になるのが淡水の特性。さらに、湧水や季節循環の影響でサーモクライン(温度躍層)が形成され、5〜8m付近や10m以深で体感温度がガラリと変わることが多々あります。

透明度は季節・降雨・風の有無で振れますが、概して秋〜冬は視程が伸び、初夏〜夏は浅場の色が豊かでフォトジェニック。波やうねりの影響が少ないため、フォトや中性浮力の練習、講習にも適したフィールドです。

ロケーションと地形の成り立ち

溶岩流が形づくった湖盆は棚状の地形と段差、クラックが豊富で、構図の“置きどころ”が見つけやすいのが利点。湧水に洗われた一帯は水色が澄み、午前の斜光が差すと沈木の枝先がくっきりと浮かび上がります。砂礫帯は粒径が比較的大きく、フィンワーク次第では巻き上げが起こりにくいのも好材料。視程に恵まれる日は、白い砂礫がレフ板のように光を回し、ワイド写真の奥行きを後押しします。

淡水特性とダイビングへの影響

  • 浮力が小さい:海よりウエイトを0.5〜1.5kg増やすケースが多い。初回は余裕を持たせ、2本目で微調整。
  • サーモクライン:躍層通過時に体感温度が急降下。保温と呼吸数の変化に留意し浮上計画は保守的に。
  • 透明度の変動:前日降雨・強風・プランクトン期で視程は上下。午前優勢の傾向が強い。
  • 器材ケア:塩害はないが、湧水に含まれる微粒子で微細な目詰まりが起こることも。淡水でも洗浄は丁寧に。

透明度と水温の目安(季節変動)

季節 表層水温 10m以深 透明度 特徴
春(4–5月) 8–12℃ 6–8℃ 10–15m 冷たいが安定。練習・講習に適する。
初夏(6–7月) 14–20℃ 8–10℃ 8–15m 水草が生き生き。色のり良好。
盛夏(8–9月) 20–24℃ 10–12℃ 8–12m 浅場快適。深場は相変わらず冷水。
秋(10–11月) 14–18℃ 8–10℃ 12–20m 視程が伸びやすいベスト期。
冬(12–3月) 4–8℃ 4–6℃ 15–25m 極寒だがクリスタル視程。

用語ミニ辞典

アルティチュード
高所潜水。標高に応じて無減圧限界や浮上手順の扱いが変わる概念。
サーモクライン
急激に水温が変わる層。保温・呼吸数・ガス消費に影響。
等深線ダイブ
岸沿いの等深線に沿って移動し、急深地形に安全に対処するコース取り。

Pro Tip:視程狙いは「秋晴れ×午前×湧水側」、快適性重視は「初夏〜夏×浅場ワイド」。目的に応じて時期と時間帯を固定すると外しにくい。

見どころと水中景観(沈木・湧水・水草帯・溶岩棚)

本栖湖の被写体は“止まっているのにドラマがある”のが特徴です。年月を経た沈木は枝ぶりが劇的で、午前の斜光でシルエットを切り取れば、海の根とは違う荘厳さが出ます。湧水帯では水面のような揺らぎが水中で生まれ、背景に“ボケ”のテクスチャを与えます。水草帯は初夏の新緑、盛夏の密生、秋の落ち着いたトーンと表情を変え、溶岩棚や砂礫帯はワイドの前景や被写体の“置き台”として活躍。昆虫の羽化殻、小魚の群れ、底生生物の生活痕など、海では出会いにくいディテールも豊富で、マクロ〜ワイドまで練習テーマに事欠きません。

沈木を主役にする(構図・露出・光)

  • 構図:根元を手前に置き、幹を見上げるローアングルでスケール感を誇張。
  • 露出:逆光気味で-0.3〜-1.0EVに締め、ストロボは弱めに木肌だけを起こす。
  • 光:午前の斜光で枝先を抜く。白い砂礫を背景に置くとコントラストが上がる。

湧水帯の“ゆらぎ”を活かす

湧水の吐出口周りは砂が湧き上がり、細かな粒子の流れが可視化されます。ニーリングや底這いは厳禁。ホバリング維持と最小限のフィンワークで水の清澄さを保つと、ガラスのような背景が手に入ります。風の弱い午前は特に顕著です。

水草帯・溶岩棚の活用(前景・背景・ライン)

  • 水草の前ボケで被写体に“額縁効果”。
  • 溶岩棚のクラックは小魚の溜まり場。被写体の“置き場所”として秀逸。
  • 砂礫の明暗ラインを“導線”として画面にリズムをつくる。
被写体 最適時間 推奨レンジ 露出の目安 フィンワーク
沈木シルエット 午前の斜光 10–16mm相当 -0.3〜-1.0EV バックキック/ヘリコプターターン
湧水の揺らぎ 風弱い日・終日 標準〜マクロ ±0EV ホバリング維持、ニーリング禁止
水草の前景 初夏〜盛夏 ワイド +0.3EV フィン先を浅く、巻き上げ回避

撮影のコツ:“止まっている被写体×静かな水”は練習に最適。SSを意図的に落として微細な粒子を“光の埃”として描くと、写真に奥行きが出ます。

代表的なダイビングポイント(コース取り・難易度・見どころ)

本栖湖はビーチエントリー中心で、講習やフォト練習に向く穏やかなスポットが多い一方、急深ゆえに等深線を外して不用意に落ちると消費が早くなりがちです。基本は「岸沿い→等深線沿いに移動→見どころで滞在→U字orL字で戻る」のコース取り。最大深度・反転深度・ターン圧・残圧報告のルールをチームで共有してから入ると、快適さと安全性が両立します。

沈木エリア(幹と枝のシルエットが主役)

  • 見どころ:立ち上がる巨木、横たわる幹、枝先のレイヤー。
  • 難易度:中級。段差に沿って浮力管理。
  • コース:浅場でトリム調整→等深線で徐々に深度→沈木群を反時計回り→砂礫帯経由で戻る。

湧水帯(クリアな視程と流れの可視化)

  • 見どころ:砂の湧き上がりと揺らぎ模様。
  • 難易度:初級〜中級。巻き上げを避ければ快適。
  • コース:水草帯→湧出点→砂紋→浅場で安全停止。

溶岩棚・モザイク帯(テクスチャと小景の宝庫)

棚の縁は小魚が集まりやすく、ライトで陰影を整えると“彫刻的”な質感に。クラックは狭所なので突っ込み過ぎず、常に退路と浮力を確保して観察しましょう。

ポイントタイプ 最大深度 主な見どころ 適性レベル 滞在のコツ
沈木群 15–25m 幹のスケール感、枝のシルエット 中級 同じ構図を反復し微修正で完成度を上げる
湧水帯 5–12m 透明感、砂の湧き上がり 初級〜 ホバリング維持と巻き上げ回避が命
溶岩棚 10–18m 段差、クラック、砂礫のライン 初級〜 棚のエッジを常に視野に入れ落差に備える

安全メモ:「最大深度=反転深度ではない」。見どころの直前で反転深度に達しないよう、手前に余白を残す計画が快適さを決めます。

シーズン・水温・ベストタイミング(年間の狙い所と装備選び)

“いつ行くか”で本栖湖の印象は一変します。透明度と光の角度が噛み合う晩秋〜冬は作品づくり向き、初夏〜夏は快適さと色の豊かさで練習がはかどります。湖は海況待ちの“第三の選択肢”としても優秀で、波やうねりの影響を受けにくいぶん、風と降雨の影響に注目しましょう。ここでは月別の装備・練習テーマ・撮影狙いを整理し、現実的な年間プランを描きます。

月別プランと装備・テーマ

狙いどころ 装備の目安 練習テーマ/撮影
4–5月 安定視程で基礎固め ドライ+厚手インナー、フード・グローブ トリム・ホバリング・バックキック
6–7月 新緑の水草と柔らかい光 ドライ薄手〜5mmウェット+フードベスト ワイド構図の引き算、露出の微調整
8–9月 表層快適・朝夕の斜光 5mmウェット(冷え性はドライ) 浅場レンジコントロール、呼吸数管理
10–11月 視程向上・光のコントラスト ドライ+中厚インナー 沈木シルエット、陰影表現の追い込み
12–3月 クリスタル視程・静寂 ドライ+強保温、ドライフード推奨 低温下のガス管理、筋疲労の抑制

時間帯と気象の読み方

  • 午前優勢:風が弱く、水面・浅場の粒子が落ち着く。斜光で立体感が出る。
  • 前日降雨:流入の影響で視程ダウン傾向。湧水側は回復が早い場合も。
  • 曇天:コントラストは下がるが、木肌や水草の質感表現に向く。

快適性アップの小ワザ

二枚インナー運用
休憩中に内側だけ交換し、2本目の保温性をリセット。汗冷えを防ぐ。
温かい飲料と補給食
低体温対策と集中力維持。甘味+塩分のバランスを意識。
フードベスト一体化
ウェット時は首元からの侵入を抑え、体幹の冷えを軽減。

計画の軸:「視程優先(秋〜冬)」か「快適優先(初夏〜夏)」かを先に決め、装備・時間帯・ポイント選択を逆算すると外しにくい。

必要スキル・装備・安全管理(高所×淡水の教科書)

静かな環境の本栖湖は学びに理想的ですが、「淡水」「急深」「高所」という三要素が重なるため、海の感覚だけで臨むと“うっかり”を招きます。安全と快適を同時に高めるには、アルティチュード設定・浮力管理・保温・ガス管理の4本柱を運用の中心に据え、チェックリストで抜け漏れを潰すのが近道です。

チェックリスト(三段階)

  • 入水前:コンピュータの高所設定/最大深度・反転深度・ターン圧の合意/ライト・カメラの動作確認/保温の最終チェック。
  • 潜水中:等深線に沿って移動/躍層通過時の体感変化に注意/浅場ほど浮上速度を保守的に/巻き上げ回避のフィン角度。
  • 浮上後:保温と水分補給/ログに深度・水温・視程・装備感を記録/2本目のウエイト・インナーを微調整。

装備の目安(海との違い)

項目 本栖湖(淡水) 補足
ウエイト 基準 +0.5〜1.5kg 個人差あり。初回は余裕→2本目で詰める。
スーツ 季節相応 一段階上の保温 躍層以深の冷え対策。インナー厚手推奨。
ライト 標準 やや強め 沈木やクラックの陰影再現に有効。
フード/グローブ 任意 通年推奨 頭部・末端保温は快適性に直結。

アルティチュード潜水の要点

  • 気圧差で無減圧限界が変わる。コンピュータの標高設定を現地で再確認。
  • 浅場ほど浮上速度を抑え、安全停止は丁寧に。特に最終5mで油断しない。
  • 休憩中は保温と補給を重視し、2本目以降の判断力低下を防ぐ。

安全第一:“深追いしない”が合言葉。等深線を外さず、余裕あるガス・時間管理で快適性と作品の質は両立できます。

アクセス・施設・現地サービス活用(計画から当日運用まで)

首都圏・中部圏から日帰り圏内の本栖湖は、海況に左右されない“第二案・第三案”として計画に組み込みやすいのが魅力です。現地サービスをベースにすると、駐車・更衣・温シャワー・タンク・休憩スペースがまとまり、装備の微調整やポイント選択がスムーズになります。初来訪はガイド付きで“急深地形の読み方”と“本栖湖の適正ウエイト”を短時間で学ぶのが近道です。

アクセス目安

出発エリア 主なルート 所要時間 ひと言メモ
東京方面 中央道〜河口湖IC〜国道経由 約2.5〜3時間 週末は早発で渋滞回避。
名古屋方面 東名〜新東名〜中部横断道 約3.5〜4時間 標高差を考え休憩多めに。
静岡方面 身延・本栖みち経由 約1.5〜2時間 山間部の天候急変に注意。

当日のタイムテーブル例(2ダイブ・フォト想定)

  • 07:30 ベース設営・装備準備・ブリーフィング
  • 08:30 1本目(湧水帯・浅場ワイド)
  • 10:30 休憩(保温・補給)→ログで装備感を共有
  • 11:30 2本目(沈木・溶岩棚の陰影狙い)
  • 13:00 撤収・器材洗浄→周辺ランチ

持ち物チェック(忘れがち項目)

替えインナー/靴下
2本目の保温性能を復活させる即効策。
温かい飲料・補給食
低体温対策と集中力の維持に直結。
大判タオル・防風シェル
風の強い日は休憩中の体感温度が大きく下がる。

現地活用:“透明度の良い側”や“巻き上げの少ない時間帯”など、その日の“正解”は現地が最短ルート。初回はガイド活用が賢明です。

まとめ

本栖湖ダイビングの核心は「静謐さと透明度」「高所×淡水の学び」「光を味方にする構図作り」の三点にあります。湧水に磨かれたクリアな水は、沈木と溶岩棚に深い陰影を生み、朝の斜光が差す時間帯には水草が前景の“枠”として機能。

海では得にくいゆったりとした撮影・トレーニング環境が整います。一方で、淡水は浮力が小さく、躍層をまたぐと体感温度が大きく変化するため、保温・ウエイト・ガス管理を海より一段保守的に運用する判断が必要です。視程最優先なら晩秋〜冬、快適さ優先なら初夏〜夏が狙い目。

はじめての人は現地サービスのガイド付きで等深線に沿うコース取りを学び、最大深度・反転深度・ターン圧のルール化を徹底しましょう。計画と準備が整えば、日帰りアクセスで作品づくりとスキルアップを同時に叶えるハイバリューなフィールド——それが本栖湖ダイビングです。